新婚旅行以来、私達夫婦にとって
年に一度の楽しみだった海外旅行は
子育てフェーズに入り、またはウイルスの影響で
「夢のまた夢」のような思い出となった。
娘が、1歳半を過ぎ
気がつけば、おなかの子も7ヶ月になった。
ときが過ぎゆくのはあっという間。
娘を授かったとき、ちょうどコロナが日本で蔓延しかけた頃で
旅行どころか、近くの公園やスーパーに行く回数さえも制限されていたときだった。
だからというわけではないが、
出産前に産前旅行をするのが密かな夢だった。
つわりがあけて少し経ったとき、
主人がふたりの旅行を提案してくれた。
娘をお義母さんに預けて、一泊二日の旅行。
ふたりでの本格的な旅行は
ポルトガル旅行以来、3年ぶり。
今回はずっと憧れていた
伊豆の修善寺にある旅館「あさば」に宿泊できることになった。
私達夫婦にとって、
ふたりきりでで食事をしたり
どこかへ出かけることというのは、産後数えるくらいしかなく
娘を預けて旅行に行くのはもちろん初めて。
娘と一緒だと目を離せないし、いつも何かしら心配事がついて回る。
唯一、ドライブをしながら娘が寝てくれたときは、二人で話ができるので
ドライブに出かけることはよくあった。
娘は、お義母さんが大好きで
私達以上に懐いているので、本当にありがたいなぁと思いながら。
旅行当日も、「ゆっくり楽しんでおいでね!」と
優しいお見送りに泣きそうになってしまった。
そうして始まった久々の夫婦二人の旅。
伊豆に着くまでは、途切れることなく話をした。
娘のこと、これから生まれる息子のこと
お互いの仕事のことや家族のこと。
会話の中身が、以前のふたり旅の頃と
全く変わったね。と笑いながら振り返ったりもした。
出発時には全身がずぶ濡れになるくらいの大雨だったが
気がつくと辺りは明るくなって、太陽が出始めた。
伊豆につくと、主人が見つけてくれていた
海鮮の美味しい定食屋さんへと連れて行ってくれた。
美味しくてとても満足げな妻。
このお店の周辺には干物や海鮮のお煎餅
スイーツなどを食べながら練り歩けるような雰囲気だった。
私達は、少しでも長く旅館でのじかんを確保すべく
修善寺へと向かった。
実は主人と付き合って初めての旅行は伊豆で
主人が会社の研修でこのお宿に宿泊したことがあるという話を聞きながら
あさばの前を通ったのが懐かしい。
当時はその研修合宿が本当にプレッシャーで
寝ずに課題に取り組んだり、翌日のテストに向けて復習を繰り返したり
せっかく美味しいご飯も味がしなかったそう。
「その研修で恩師に出会えたからこそ、今の自分がある」
と彼はいうけれど、やっぱりプライベートの旅行で宿泊するとなると
全く違う場所のように感じるらしい。
散歩をしながらボソッとつぶやいた
「いつか泊まってみたいな」というわたしの言葉を覚えていてくれた。
あさば旅館の客室には全て名前がついている。
客室風呂がついているお部屋もあればそうでないお部屋もあるが
全ての客室に特徴があるように感じる。
今回のお部屋は「撫子(なでしこ)」というお部屋
お部屋に入った瞬間に思わず息をのむ。
まるで絵画のような光景が広がっていた
窓が開いていて、
水の流れる音、心地よい風、サラサラと揺れる木々の音に一瞬で癒された。
ゆっくりしていると、お茶とお菓子を持ってきてくださって
贅沢なこの空間でなにも考えずにゆっくりさせてもらっていることに
じんわりと浸ってしまう。
お茶のセットが素敵すぎる。
こんなふうに揃えられたらと思うけれど、うちの場合はそもそもお番茶を入れる習慣から取り入れねば、、、
寄り道をせず、お宿に早めにチェックインして本当によかった。
時間ごとに部屋の雰囲気は、見る見る変わっていく。
その一瞬を見逃したくなかった。
廊下の扉を開けるごとに宝物のような部屋が広がっている。
この部屋は洗面所
鏡と、洗面台だけがある部屋。
もしここが自宅なのだとしたらドレッサールームのような場所。
この部屋の角に小さな冷蔵庫があって、そこには飲み物が。
栓抜きのお品の良さ。
脱衣所には浴衣にパジャマ、バスローブ。
素敵な棚に「どれでもお好きなお召し物をと言わんばかりの佇まい」
ヒノキのお風呂は扉を開けた瞬間にふわぁ〜と香りがする。
お湯には緑が反射してキラキラしていた。
宿泊先の水回りはどうしても使用感があるのは仕方のないこと
という概念を吹っ飛ばしてくれるような美しい浴室。
あさばという旅館は、
旅先の特別感をゲストに与えつつ、日常の中にも取り入れたいと思わせるような
「生活しやすさ」「無駄のない空間づくり」のような部分にも刺激を与えてくれる。
「こんな自宅だったらいいな。」と心から思わせる魅力がある。
(自宅に落とし込むには色々が難しいが。)
ただ、ホッとするだけじゃない空間の美しさがある。
明るいうちに館内も見に行こうという話になった。
どうやら部屋の反対側には能のお堂を眺めながら
コーヒーやお茶が好きなだけ飲めるサロンがあるらしい。
私たちの旅行は、気づけば折り返しの時間に差し掛かっていた。
ゆっくりと過ごす時間はあっという間に過ぎてしまうけれど
満たされ続けるあさばでの時間はもう少し続く。
それは「あさば Vol.2」にて。